コロナ禍 日本は優等生? 

V 感染拡大の比較

 

日本では、(第1波から第5波まで計5回の感染拡大(流行期)がありましたが)、「いずれの感染拡大も速やかに終結させてきました。これは日本の特長です。」 と申しました コロナ禍 日本は優等生? U感染拡大の推移)。それって,本当でしょうか? あらためて、日本と外国の感染拡大とを比較してみました。 

 

1)諸外国との比較

まず、幾つかの国と比較してみましょう。このグラフのように、日本ではそれぞれの感染拡大がピークを形づくって、わりと速やかに終わっています(第1波、第2波では、小さすぎてわかりにくいですが)。しかし、ほかの国では、長く続く高原状の山、あるいは山の連なりのように見えます。

a. 感染拡大の大きさ 

本論に入る前に、注意点を一つだけ述べておきますと、感染拡大の大きさには、「感染者数の多少、および感染者数の多い状態がどれほど続いたのか」の両面を勘案しておく必要があります。仮に感染者数が2万人となった場合でも、それが数日で終わったものと、数十日間も続いたのとがあれば、当然後者のほうが大きな感染拡大です。(なお、このグラフでは、縦軸のスケールが国によって大変異なります。)

 

最初に、日本とイギリスとを比較してみましょう。このグラフのように、日本の感染者数は最大で2万人でしたが、イギリスは6万人でした。しかし、それだけではなくて、日本で2万人を超えたのはわずか1週間ほどですが、イギリスでは全部で10ヵ月分くらいあります。(このグラフでは両方の国の2万人の所に点線を入れてあります)。つまり、イギリスの感染拡大は、日本とは桁違いに大きなものでした。また、ドイツを見ますと、その感染者数が最大で6万人です。さらに、2万人を超えた日が、全部合わせると2ヵ月分にもなります。それほど、ドイツの感染拡大は大きなものでした。ロシアの場合も、感染者数が最大で4万人に達しており、2万人を超えた日も合わせると数ヵ月分にもなります。このようにロシアの感染拡大もとても大きなものでした。

アメリカの感染拡大は最悪で、縦軸のスケールがちょうど日本の10倍で、感染者がいかに多かったのかわかります。さらに、感染者数が10万人を超えた日を合わせると、全部でほぼ半年分くらいあります。このように、アメリカの場合、その人口(3.3億人)を考慮に入れても、とても大きな感染拡大でした。

他方、韓国(4千人の所に線を入れました)だけは、うまく感染拡大を抑えていました。韓国の人口(5千万人)を考慮に入れても、日本よりもうまく対処できていたようです。

 b. 感染拡大の長さ 

どうも、諸外国の感染拡大は、日本とは違って長く続いたようです。それをはっきりさせるために、感染拡大が始まって終わるまでの期間を、(少し主観的ではありますが)、水色のバンドで示しました。日本の感染拡大はいずれも長く続かずに終わっています(第1波と第2波には、バンドは表示していません)。それに対して、これらの4ヵ国では、どの国の感染拡大も長く続いています。たとえば、一番下のアメリカでは、1年以上も続いているものがあります(2020年6月〜202年6月)。

以上のように、日本の感染拡大は感染者の数も少なく、いつも速やかに終わっていたのに対して、これらの4ヵ国(イギリス、ドイツ、ロシア、アメリカ)の感染拡大は、とても大きな(感染者数が非常に多くて、しかも長く続いた)ものでした。

c. 死者数

感染者数はあまり信頼のおけない(大まかにしか信用できない)数字なので、死者数のデータもチェックしておきたいと思います。日本でも感染拡大に対応して死者数も増えています。このグラフを見ていただくと、死者数にもやはり山があって、その間では減少しています。そして、右端のスケールを見ていただくと、日本では100人を超えた日が少しあるだけで、ほとんど100人以下に収まっています。ところが、イギリスやドイツでは1千人を超えた日、ロシアやアメリカでは2千人を超えた日が何日も続いています。このように、諸外国では死者数も非常に多くなっています。ただし、韓国だけは、死者数も少なくて、50人を超えた日が少しあるだけです。このように日本は(それに韓国も)、死者数のデータからも、他の諸国よりも格段に小さい感染拡大であったことが裏づけられています(「コロナ禍 日本は優等生? T感染者数と死者のデータから」を、ご参照ください)。

 

もう少し細かく見ていくために、このグラフを3期に分けて見てみましょう(下の図)。

A 20201月〜20206月(青色のベール)

この時期は、コロナウイルスの流行が始まった頃で、どの国においてもそれほど多くの感染者は報告されていません。ところが、死者数のほうは少なかった国(日本、ドイツ、ロシア、韓国)と、多かった国(イギリス、アメリカ)とがあります。(おそらくは、感染者数は本当に少なかったのではなくて、少なかった国ではPCR検査の数が十分でなかったと考えられます。)

 

B 20207月〜20216月(黄色のベール)

この時期では、どの国でもAの期間に比べて、大きな感染拡大が起こりました。そして、感染拡大とほぼ同じタイミングで、死者数も多くなっています。

C 20217月〜202112月(赤色のベール)

 この時期には、日本では最大の感染拡大が起こっていますが、死者数はそれほど増えていません。それは、元々日本では死者数が少なかったのと、ワクチン接種の効果が重なったためと考えられます(「コロナ禍 日本は優等生? U日本の感染拡大から」を参照

日本と韓国以外では、それまでは感染拡大に伴って死者数も増えていたのに、イギリス、ドイツでは、感染者数がたいへん増加したにもかかわらず、死者数はほとんど増えていません。ところが、ロシアやアメリカでは死者数も大幅に増えています。どうして、このような違いが生じたのでしょうか?

イギリス(接種率99.6%やドイツ(90%)ではワクチン接種が進んでいたので、ワクチンの効果で死者数が抑えられたのでしょう。他方、ロシア(接種率51%)は、ワクチン接種があまり進んでいなかったために、それまで通りの多くの死者数となったのでしょう。また、アメリカ(接種率78%)はワクチンの接種がある程度進んではいましたが、国内で大きな偏りがありました。つまり、州によって大きな差があったので、ワクチン接種の進んでいなかった州で死者が多かったのかもしれません。あるいは、黒人層では、それ以外の人種の約2倍の感染者、死者があったようです。そういう集団で特に摂取率が低かったのでそうなったのかもしれません(いずれにしても、これはアメリカのデータを詳細に検討して確かめる必要がありますが)

また、韓国は、ワクチン摂取率が高かったにもかかわらず、死者数が多くなっていますが、それでも数字的には50名を超えたくらいですから、非常に少ないです。

以上のことから、この期間(C: 2021年7月以降)について、以上のように、おおむね、「ワクチンの接種が進めば、感染者数は増加しても、死者数は抑えることができる」として、説明することができます

 

2)感染拡大の推移:複数の国との比較

もう少し他の国もあわせてみてみましょう。まず、ヨーロッパをみましょう。

a) ヨーロッパ5ヵ国

ヨーロッパの主要な国を並べて描いてみましたが、感染者数の推移も、死者数の推移もよく似ています。やはり陸続きなので、互いに影響し合っていたのでしょう。さて、3つの期間に分けてみて見たいと思いますが、このグラフのように3期間のどこでも5ヵ国間でよく似ています。

A 20203月〜6月(青色のベール)

小さな感染拡大がありましたが、それに伴う死者は(ドイツを除いて)、非常に多くなっていました。(感染者数が少なかったのは、PCR検査が十分でなかったためと考えられます。)

B 20207月〜20216月(黄色のベール)

長く続く大きな感染拡大があって、それに伴う形で、死者数も増加しています。

 

 

C 20217月〜12月(赤色のベール)

この期間でも、(それまでと同じくらいの)感染拡大が起こっていますが、今度は、ABの期間とは違って、死者数はほとんど増加していません。おそらくは、前節でも述べましたように、この時期には、各国ともにワクチン接種が進んでいて(これらのヨーロッパの国ではどの国でもワクチン接種率が90%以上です)、それが、死者の増加を防いでくれたのでしょう。新たに加えたスペイン、フランス、イタリアも、「ワクチンの接種が進めば、感染者数は増加しても、死者数は抑えることができる」との、先に挙げた仮説を支持しています。

(別の所でも申し上げますが、ワクチンは実に有効です。感染者数も抑えてくれるし、重症化も死者数も抑えてくれます。ただし、感染拡大そのものは、抑えられないようです。「コロナ禍 日本は優等生? U日本の感染拡大から」を参照

 

b) アジアの3ヵ国(日本、インド、インドネシア)

これらのアジアの国では、最も大きな感染拡大が2021年になってから起こっています(グラフには青いベールをかけて示す)。そのときの最大の感染者数は日本が2万人、インドが10万人弱、インドネシアが5万人です。これらは、人口の違い(日本=1.25億人、インド=13.5億人、インドネシア=2.6億人)を考慮すると、ヨーロッパ諸国に比べてとても少ないです。ヨーロッパでは、たとえば人口5千万人のスペインで3万人でした。さらに、これらのアジアの国では、どの国でもそのような大きな感染拡大は1回だけで、それもピークを形づくって、短期間に終わっています。

 

また、感染者数が少ないのは、PCR検査が少なかったためとも考えられますので、死者数も見ておくべきでしょう。死者数は日本で最大で100人くらい、インドで4千人くらい、インドネシアで2千人弱でした。ところが、ヨーロッパ諸国の死者数は、5百人〜千人くらいでした。ですから、人口の違いを考えますと、(感染者数ほどの大差はありませんが)、これらのアジアの国では死者数も非常に少なかったことになります。

以上のように、これらのアジアの国(日本、インド、インドネシア)では、感染者数で見ても、死者数で見ても、感染拡大を小さく押さえることができていました(ここに、韓国と中国も含めることができるかもしれませんが)。しかも、これらの国ではワクチン摂取率がそれほど高くなかったにもかかわらずです(日本について断っておきますと、日本では、第5波の終わりの頃で摂取率が50%くらいでしたので、第5波にはワクチンによる効果もある程度含まれていると思われます。しかし、第1波から第4波までではワクチン接種は皆無かまだごくわずかでした)。先に、ヨーロッパ諸国について、「ワクチンの接種は、感染拡大を抑えることはできないが、死者数は抑えることができる」との解釈を示しましたが、これらのアジアの国では、ワクチン接種がまだ行われていなかった時期でも、あるいはワクチン摂取率がまだ高くなかった時期でも、感染拡大を抑えることができていました(感染拡大のピークの大きさが小さく、それが長期に続くこともなかった)。それは、どうしてでしょうか? ヨーロッパにはない、何か、アジアの国に共通する要因があったのではないでしょうか?

 

c) ロシアとアメリカ

 最後に、ロシアとアメリカを見なおしておきましょう。どちらも、人口の多いことを考慮に入れたとしても、すでに見てきたように感染者数も死者数も非常に多いです。そして、感染者数が多い期間も、死者数の多い期間(水色のバンドで示す)も、始まってからずっと今まで続いているようなものです(ロシアでは、増減の波がありますが。また、アメリカでは、202156月頃に一度だけ減っておりますが)。いずれにしても、日本、インド、インドネシアでは、感染拡大があっても、それらを少なくともいったんは終結させているのとは、対照的です。

さらに、2021月7月以降(赤いベールの部分)では、今までに述べた国(ヨーロッパ5ヵ国とアジア3ヵ国では)では感染拡大は起こっていても、死者数は抑えられていました。ところが、ロシアやアメリカでは死者数の増加も続いたままです。その原因は、両国のワクチン接種の低さにあるのかもしれません(アメリカでは、摂取率の低い州が少なからず存在したなど)。

 

 

3)まとめと結語

今まで、諸国の感染拡大の様子を見てきましたが、この表のようにまとめることができるでしょう。

ヨーロッパ:感染拡大が非常に大きく、しかも長く続いた。さらに死者の数も非常に多かった。ただし、ワクチン接種が進んだ後では、感染拡大は起こったが、死者数は抑えられた。

アジア(日本):ワクチンがなかった時期でも、感染拡大は小さく、それも毎回終わらせることができた。死者も少なかった。さらに、ワクチン接種が高くはなかった状況(50%前後)でも、感染拡大は起こったが、それも終結させることができて、死者数も少なかった。

ロシア/アメリカ:非常に大きな長期間の感染拡大が起こった。死者も非常に多かった。ワクチンの接種が少し進んだ後でも、同様な感染拡大が起こって、死者も非常に多かった。

 

 

これらの事実を、どう説明したらいいのだろうか?

@    ヨーロッパやロシア、アメリカでは、とても大きな(感染者数も死者数も非常に多く、長く続いた)感染拡大が、何度もあった。

A    他方、アジア(日本、韓国、中国も含む)では、感染拡大は小さく、死者数も少なかった。

B    アジア(日本、韓国、中国も含む)には、西欧にはない、何か感染拡大を抑える力があったのではないでしょうか?

C    ヨーロッパではワクチン接種が進んだ後でも、大きな感染拡大が起こった。そのことは、感染拡大を抑えるためには、ワクチンに加えて、何かアジアの国が持つそのような力が必要なのではないでしょうか。

D    他方、ワクチン接種は感染拡大の生起を抑えることはできないが、死者数をかなり強く抑えることができる。さらに、ここにはデータを示せなかったが、ワクチンは感染拡大を小さくし、また、重症化も抑えることができる「コロナ禍 日本は優等生? U日本の感染拡大から」を参照

E    結論として、感染拡大を本当に抑えるためには、ワクチンの接種に加えて、アジアの国が持っているそのような力を発揮することが必要であると考えられる。(言い方を変えると、ワクチンを接種したからといって、完全に安心してはならない)。

 

 「アジア(日本)の力」とは?

誰もが知りたいことであり、日本では日本が優等生であることの原因を「Factor X」として、多くの識者が探しているが、部分的な候補が挙げられているものの、いまだその答えは得られていない。ただし、ここまで(「日本は優等生?T、U、V)述べてきたことから明らかなように、それは「日本の力」ではなくて、「アジアの力」だと、考えられます。

筆者は、(心理学を専門とすることもあって)、それは人々の心理的、行動的要因と考えている。そして、筆者の浅学からは、以下のような候補を考えているが、このページで指摘したデータをご覧いただいた上で、多くの方にもっと考えてみてもらいたいと願う次第である。

@    接触的挨拶(握手、ハグ、キス)をほとんどしない。

A    高温多湿な国が多くて、もともと種々の感染症が多い地域で、それなりに、衛生習慣(マスクに拒否反応がない、行動自粛を受け入れやすいなど)が根づいている。

B    欧米に比べて、日常的な、距離的に長いあるいは集団間の人々の往来・交流がまだ少ない。 

 

 何かきっと、答えがあるはずである。生物学的・医学的な要因かもしれないし、ここで述べたような心理的・行動的な要因かもしれないし、もっと文化的な要因かもしれない。また、それらの複合的なもの(交互作用)かもしれない。しかし、必ず、何かあるはずである。それは、大きな希望でもある。是非、皆様にも、考えていただきたい。