U 日本の感染拡大から
日本ではこれまで第1波から第5波まで、計5回の感染拡大(流行期)がありました。ところが、このグラフに見られるように、どの感染拡大もわりと速やかに終結させることができました。
これって,当たり前のことでしょうか? @たとえば、どこの国でも同じようにできたのでしょうか? Aまた、ロックダウン(日本の場合には、緊急事態宣言などのマイルドなロックダウン)などの政府の対策の成果なのでしょうか? Aが正しければ、どの国でもロックダウンをすれば、感染拡大を必ず終結できたはずです。本当にそうでしょうか?
この@、Aについては、このホームページの「コロナ禍 日本は優等生? V感染拡大の国際比較」で,検証してみたいと存じます。その前に、日本の感染拡大の推移について確認しておきましょう。
1. 感染拡大の大きさ
5回の感染拡大では、その大きさ(ピーク時の感染者数)に大きな差がありました。おおむね、第1波≒第2波<第3波≒第4波<第5波の順に大きくなっています。第1波と第2波では、感染者数が最大で数百人であった(これにはPCRの検査数が少なかったことも影響している)のに対して、第3波と第4波では、最大で7,000人くらいに跳ね上がっています。そして、第5波は、それまでとは桁違いに大きくなって、最大25,000人にまでなりました。
2. 感染拡大の期間
そして,感染拡大の期間(長さ)も、第1波から第5波で違っています。第1波と第2波は、(第2波の方が少し長いですが)、両方ともに短くて、その次の第3波が最も長かったようです。そして、第4波と第5波の長さは同じくらいで、両波とも第3波よりは少し短かったようです。特に第5波はとても大きな感染拡大であったにもかかわらず、第3波よりも短期間で終わっています。
3. 第3波と第5波の感染拡大
第3波と第5波について少し注意して見ておきましょう。第3波は、それまでの第1波や第2波とは異なって、上昇期が長くなっているのが特徴的です。第3波はゆっくりとした拡大が続いた後に、急な上昇が起きています。その後で、減少(下り坂)に転じています。拡大が長く続いて減少に転じるのが遅くなったのには、菅前総理大臣の就任(2020.9.16.)が関係していたのかもしれません。つまり、菅前総理大臣の就任後初めての感染拡大であったために、対応が遅れたのではないでしょうか(このホームページの「コロナ禍の通信簿」を参照していただきたいのですが、彼は就任時に実にスピード感のない基本方針⦅2020.9.14.⦆を発表されました)。また、人の往来、交流・接触が多くなる年末と正月の時期に重なったことも、拡大を大きくしたのでしょう。
第5波の特大の感染拡大については、このホームページの「第5波の特性」で述べましたように東京オリンピックとパラリンピックの開催が影響したのでしょう。
第3波と第5波には、上記のようにそれなりの事情があったようです。それでも、これらの感染拡大には、共通している側面もありました。(以下の@とAは,このホームページの冒頭で述べたことです)
@必ず,終結していること。つまり、拡大前のレベルにまで必ず戻っています。
Aわりと短い期間(5週〜13週)で終わっています。
Bさらに、第1と第2波でははっきりしませんが、第3、第4、第5波では、明確に上昇よりも下降のカーブのほうが急峻です。
これらの事実は、各感染拡大の際にとられた、拡大を終結させるための方策や人々の行動が効果的であったことを物語っています。
どうして、日本の感染拡大はわりと速やかに終わったのでしょうか? とりあえず、以下の2点をあげることができます。
・緊急事態宣言など政府の施策、要請
・感染者数、重症者、死者、医療ひっぱく、また個人の困難、難儀の具体的ケースの報道などを繰り返し視聴することによる、国民自身が納得した上での、人々の本気の行動抑制・自粛。たとえば、外出の抑制や、マスクの着用の徹底など。
後者は、政府が行った緊急事態宣言ではなく、国民の一人ひとりが行った行動抑制や、心構えの問題です。いくら政府が緊急事態宣言などを発令したとしても、感染拡大を抑えるには、国民の一人ひとりがそのような行動を実行しなければ、当たり前のことですが、意味の無いことです。おそらくは,感染拡大が続くと(連日続けて報道などがなされると)、日本の国民の多くが危機感を感じて、自身で納得して(本気になって)、種々の行動抑制や感染対策を実行したことで、感染拡大を終結させることができたのでしょう。そこで、人々の心理面のような、目に見えない、気づかれにくい要因も合わせて考えておかないと間違った答え(たとえば、政府の施策、要請だけを強調するような答え)を出してしまう可能性があります。
(反面、このように考えることは、感染拡大の再発もうまく説明することができます。つまり、感染者数が減少して、それに伴って報道なども減って、危機感がなくなると、「喉元過ぎれば、熱さを忘れる」ように、元の行動に戻ってしまって、再び感染拡大が生じるのでしょう)。
実は、世界には、感染拡大が始まっても、それをなかなか終結させることができない国もたくさんあります。それらの国々のためにも、もしも日本の感染終結の要因(ノウハウ)がわかれば、それは世界に向けて日本が発信しなければならない貴重な情報です。その意味でも、日本が感染拡大をわりと早期に終結させることができた要因を明らかにすることは、重要です。
上で述べた要因以外に、ワクチン接種の効果が考えられます。日本でも遅ればせながらワクチン接種が進んでいます。ワクチン接種が感染拡大の終結に役立ったのか、どうか検討してみましょう。
日本のワクチン接種は第4波の頃から始まって、題5波の頃から本格化して、現在も続行されています。そうは言っても、5波の終わった頃で約50%の摂取率です(ワクチンは2回接種しないと本来の効力を発揮してくれません)。また、50%と言いますと、まだ接種をしていない国民が半分いる、つまり、6千万人強おられるということです。
もう少し細かく見ていきますと、第3波までにはワクチン接種はまったく行われていませんでした。第4波の最初の頃に開始されましたが、減少期になった時でも10%前後(4→12%)ですので、そのワクチン接種が感染拡大の終結に役立ったことはないでしょう。
第5波の頃には、ワクチン接種がもっと進んではいましたが、@感染拡大の上昇期に比べて、下降期で飛躍的に接種率が上がったわけではありません。Aしかもワクチンが実際に効力を発揮するのは接種後、約2週間後からです。それを考えますと、なおさらそう思われます。また、B感染拡大がまだ小さかったとは言え、第1〜第3波をワクチン無しで終結させることがでていました。これらを合わせて考えると、第5波の終結にワクチンが寄与したとはあまり考えられません。このように、感染拡大の終結にワクチンの接種が役立ったという証拠は日本では得られていません。
以上に述べたように、ワクチンは感染拡大の終結にはさしたる効果を発揮していなかったようです。もしかして、ワクチンの効果は大したことがないのでしょうか。それについて,データから考えてみましょう。
@ 重症化、死亡を抑える効果
次のグラフは第3波の途中から第5波の終了後(2022.1.12.)までを描いたグラフですが、何か,お気づきになりませんか? 少し不思議なことが起こっているようですが。いかがでしょうか?
第3波と第4波を比べますと、、感染者数も、重症者数も、死者数も、第3波とほぼ同じくらいか、第4波のほうが若干多いくらいになっています。ところが、第4波と第5波を比べてみますと、意外なことが起こっています。感染者数は約4倍に増えているにもかかわらず、重症者数は1.6倍にしか増えていません。死者数も、あろうことか、減少しています(約0.7倍)。どうして、なんでしょうか?
第5波の頃には、(先に述べましたように)、国民の3割〜5割にワクチン接種ができていました。ですから、感染者数は増えているのに対して、それほど重症者は増えずに、死者数はむしろ少し減少しているのは、おそらくワクチンの効果でしょう。諸外国のデータからも、ワクチンはコロナ感染の重症化を抑え,死者数を抑える効果が認められると報告されています。このように、我々日本のデータも強くそれを支持しています。(なお、第5波の頃にはオミクロン株はまだ無かった。)
(念のためにこのグラフについて、申し上げておきますと、a)多くのケースで、感染をしてから1〜2週間かけて、重症化します。また、通常その重症症状が何日間か続いた後、死に至ることがあるわけです。そのために、一番上の感染者のグラフに比べて、重症者の増加は2〜3週間遅れています。さらに、死者数の増加は重症者の増加とほぼ同時か,僅かに遅れています。b)また、重症状態は何日間か続きます。そのために、一人の重症者が何日間か続けてカウントされることになります。そこで、感染者数や死者数のグラフが曜日による変動を受けて,ギザギザしているのに対して)、重症者数のグラフは、なめらかになっています。)
では、ワクチンに感染を抑える効果は無いのでしょうか。ワクチンには感染を抑える効果もあります。最新のデータはそれを証明しています。この表のように、ワクチン接種を済ませた人(ワクチンを2回接種した人)の1万人当たりの感染者数が0.6〜3.1人となっているのに対して、未接種の人の感染者数は1.4〜13.5人です。そして、どの年齢層で比べても、ワクチン接種をうけた人のほうが感染者の割合が低くなっています。全年齢層を合わせてみても、接種を済ませた人のほうが未接種の人に比べて、1/3(0.27=1.4/5.1)程度も低い感染率となっています。グラフで見ますと、その違いが実感できると思います。
e) 付録: 見通し