コロナ禍 日本は優等生?

T感染者数と死者数から

 

日本の新型コロナウイルスの感染状況を、世界の国と比較してみますと、色々な面で 「日本は優等生」 と言えるようです。本当にそう言えるのか、感染者数と死者数のデータから検討してみましょう。

なお、結論はこのグラフです。

 

 

 

(1) 感染者数 (今までの合計)

まず、感染者数の多い順に30位の日本までを、描いてみました。このグラフを見ますと、感染者がもっとも多い3カ国、つまり、アメリカ(人口3.3億人)、インド(13.7億人)、ブラジル(2.1億人)は、断トツに多いようです。また、これらの国では、感染者数を人口割合に換算しても多いようです。最も少ないインドでも日本の約2倍です(人口1,000人当たり、インド=25人、アメリカ=125人、ブラジル=105人。日本=14人)。

さて、30位の日本ですが,日本より上位に人口の少ない国がたくさん入っています。つまり、日本よりも上位にある黒色(人口1億人〜5千万人)の国、および水色(人口5千万人未満)の国はすべて、日本よりも感染者が大幅に多いことになります。たとえば、25位から29位の国では、人口がイラク4千万人、ベルギー1千2百万人、カナダ3千7百万人、ルーマニア1千9百万人、チリ1千9百万人です。つまり、これらの国は日本の約1/3〜1/10の人口ですから、人口割合で言いますと、日本のほうが、1/3〜1/10以下で感染者が少ないことになります。

また,人口が1億人以上の国(赤い色)を見ますと、人口が日本のほぼ2倍のインドネシア(2.7億人)で、ほぼ3倍の感染者数となっています。また、日本と人口がほぼ等しい、ロシア(1.5億人)、メキシコ(1.3億人)、フィリピン(1.1億人)でも、このグラフのように日本よりもずっと感染者数が多いようです。以上のように、他の国に比べて、日本の感染者数はとても少ないのです。

そして、韓国と中国を見ますと、韓国(感染者数で58位、人口5千1百万人)は、日本とほぼ同程度に感染者の少ない優秀な国です。そして、世界でもっとも人口の多い中国(感染者数で111位、人口14.4億人)は、ウルトラ優秀な国のように見えます。しかし、中国については、後で改めて述べてみたいと思います。

 

感染者数という数字の問題点

ただし、感染者数という数字は大まかには信用できますが、初めから問題を抱えた数字です。それは、感染者数はサンプル集団から得られた数字であって、実数(全国民を検査して得られた数字)ではないということです。つまり、国民の中のごく一部の人たちに検査(主にPCR検査)をして得られた数字にしか過ぎません。

@    そのため、検査人数を増やせば、当然感染者数も増えます。たとえば、日本では最大1日当たり約20万人のPCR検査を実施してきましたが、それを仮に40万人にすれば,感染者数は2倍になるはずです。この観点からいうと、皮肉なことに、感染者数が多いのは、たくさんの国民にPCR検査を実施した、むしろ国民の安全に積極的な施策を行っている国(政府)ということになります。

A    また、どういう人を対象にしたかで数字が変わります。濃厚接触者など(身近に、コロナで発症した人や感染した人がいる人)や、都市部の活動的で人との接触、交流が多い人など)を選んで検査しますと、感染者数はそれなりに増えます。

B    また、中国のように、発症している患者さんだけを検査対象としますと、感染者数が少なく報告されることになります。

 

感染者数と死者数

とは言え、国民の生命に関わることですから、世界各国ともできる限り多くの検査を実施しているはずです。そのため、各国の感染者数はまったく意味が無い数字とも言えないでしょう。しかし,上記の理由から大まかにしか信用できない数字です。それに対して、死者数は実数ですから、感染者数よりも信頼のおける数字と考えられます。そこで、死者数のデータも見ておきたいと思います。

(ここでも、ひと言お断りを申しておきますと、この数字も,意図的、非意図的にある程度操作可能です。たとえば、肺炎によって亡くなられた場合、それがコロナウイルスの感染によるものとして、「コロナウイルスの感染による肺炎で死亡」と診断書が書かれれば、その方は、コロナ感染による死者となるわけです。しかし、もしも、単に「肺炎による死亡」と診断されれば、コロナ感染の死者には含まれません。

 

(2) 死者数 (今までの合計)

まず、各国のコロナ感染による死者数を、(感染者数の多い順に つまり、前のグラフと同じ順で)、示してみました。やはり、このグラフでは死者数は、単に人口の多い順に並んでいるだけのようです。つまり、おおむね、赤色の国(人口1億人以上)、黒い色の国()人口1億〜5千万人)、水色の国(5千万人以下)の順に、並んでいます。そこで、次のグラフ(人口1000人当たりの死者の数)を描いてみました。

 

人口割合による死者数: 死者数を直接比較できるように、人口割合(千人当たりの死者数)に直して表示しました。このグラフを見ると、日本、韓国、中国の優秀さは一目瞭然です。アメリカの(千人当たり)2.5人、ブラジルの2.9人、ペルーの6.2人は,正に国難と言えるほどのレベルだと思われます。それに対して、日本の(千人当たり)0.14人(実に、アメリカの1/18)は、ありがたい数字です。このように、日本はコロナ禍の優等生と言えます。

 

中国はウルトラ優等生?

話を進める前に、中国について、先にコメントをしておきます。

以上のように、日本は優等生(感染者数、死者数共に少ない国)です。韓国も日本と同じくらいに優等生と言えます。ところが、中国は今まで見てきたように、ウルトラ優等生です。でも、本当でしょうか? 少なくとも、2つの面から疑念が残ります。

@    数字は正しいのか?:中国は感染者の捉え方が、中国以外とは同じではなくて、今までにも少し触れましたように、小さくなるような基準で出されています。また、死者の数についても大きな疑念があります。

しかしながら、中国が発表している数字を仮に100倍にしてみても、それでも感染者数、死者数ともに、他の国よりも優れているので、私などは、「それでもやはり優秀なコロナ対策ができているのでは、」と考えたくなるわけですが、皆さまはどう受け取っておられるでしょうか。残念ながら、これ以上に正しいことはわかりません。

A    国民に非常な忍従を強いるような強圧的なロックダウンをしているのでは?: 中国ではある所でコロナ感染の患者が出た場合、その都市全体、あるいはその地域全体に厳重なロックダウン(住民の外出を完全に禁じる。具体的には、警察などで強制、監視する)を強いているようです。中国政府は食料の配布など十分な配慮をしていると述べていますが。非公式には、食べものがなくて非常につらい思いをしたなどという事例が、SNS上で述べられています。

中国の感染者数、死者数の少なさから、そのノウハウを是非見習いたいものだと思うわけですが、残念ながら、上記の@とAのために、中国を見てもあまり有用な情報を得ることができないようです、世界からの信用を失うという意味で、中国にとっても非常に不幸なことと思われるのですが。

 

 

(3) 日本が優秀? 東アジア(日本、韓国、中国)が優秀? アジアが優秀?

どうも日本だけが優秀というのは、正しくないようです。下のグラフからもわかるように、日本だけが優秀、東アジアの国だけが優秀というよりも、アジアの国が優秀というのが正しいようです

千人当たり.5人の所に、点線(青色)を引いてみますと、@0.5人よりも少ない国は、すべてアジアの国です(インド、インドネシア、フィリピン、タイ、日本、韓国、中国)(インドネシアは0.5近くの0.53/1,000人。マレーシアだけは0.98/1,000人で、多くなっていますが)。Aまた、反対に、0.5人以下の所には、アジア以外の国は一つもありません。Bさらに、ヨーロッパの諸国(イギリス、フランス、ドイツ、スペイン、イタリア、ベルギー)は、すべて1(1/1,000)人以上です(一番少ないドイツで、1.33/1,000人)です。このように、アジアの国が優秀なのだろうと思われます。

 

 

 

 

地域間の比較

アジアとそれ以外の地域(ヨーロッパと南北アメリカ)とを比較するために、感染者数の上位30国の中から、3地域の国を選び出しました(ヨーロッパ:9ヵ国、アジア:6ヵ国、南北アメリカ:8ヵ国)。そして、それぞれの地域ごとの感染者数と死者数の平均値を計算して比較をしてみました。そうしますと、やはり、アジアの国々は、ヨーロッパや南北アメリカの国よりも、感染者数も死者数も少ないことを確認できました(下のグラフ)。特に、(感染者数よりも信頼のおける数字である)死者数が少ないことは、アジアの国々の感染(流行)が他の地域の国々よりも小さかったことを証明しています。

 

 

(4) どうして、アジアの国が優秀?

ワクチン摂取: まず、ワクチン接種の効果なのでしょうか? 下のグラフにょうに、確かに、日本、韓国、中国もワクチン摂取率は高いですが、@同じくらい摂取率の高い国の中にも、死者数(千人あたり)の多い国がたくさんあります(ワクチン摂取率が80%以上の国を赤い色で、70%以上の国をピンク色で表示)。Aさらに,摂取率が低いアジアのインド、インドネシア、フィリピン(摂取率が40%〜50%未満の国を浅い緑色で表す)でも、死者数は少ないです。B反対に、死者数の多い、ヨーロッパ(イギリス、フランス、ドイツ、スペイン、イタリア、ベルギー)や南北アメリカ(アメリカ、カナダ、ブラジル、アルゼンチン、コロンビア、メキシコ、チリ)のほうが、総じて、アジアの国よりも、ワクチンの摂取率が高いようです)。C全体的に見ますと、ワクチン接種率の高い国(赤色、ピンク色)と、接種率の低い国(水色、緑色、濃い緑色)とを比較してみますと、たとえば、赤い国のほうが死者数が少ない傾向にあるというようなことも、水色や緑色の国のほうが死者数が多い傾向にあるなどということは見られません。特に、死者数が極端に少ない日本、韓国、中国と、極端に多いペルーとを除いて見ますと、そのように見られます。

 

 また、右のグラフのように、3地域(ヨーロッパ、アジア、南北アメリカ)の間でもワクチン摂取率には、大きな差はありません。以上のことから,ワクチン摂取率はあまり問題にはならないと考えられます。

 

ワクチンは、コロナ感染の重症化を防ぎ、死亡を抑えるのに実に有効です(たとえば,このホームページの「第5波の特性」をご覧下さい)。ここだけを読まれると、ワクチン摂取率は死者数に影響を及ぼしていないと受けとられるかもしれませんが、このページの至らぬところであって、そんなことはありません。それには理由があります。ここでは今までの全死者数のデータを扱っています。これらの死者数には、ワクチン接種がまだ行われていなかった時期、および摂取率がまだ低かった時期の死者数がかなり含まれています。ワクチンの効果を正しく評価するためには,ワクチン接種が高率になった時期だけの死者数に注目して、検討する必要があります(それは、このホームページの新たな稿でしてみるつもりです)。

 

最後に: アジアが優秀な原因について
私なりに,その原因を考えてみますと、アジア諸国に共通な要因として、以下の3点を挙げることができると思います。

@    身体接触による挨拶(握手、ハグ、キス)をほとんどしない。

A    比較的、高温多湿な国が多くて、もともと種々の感染症が多い地域で、それなりに、衛生習慣(マスクに拒否反応がない、行動自粛を受け入れやすいなど)が根づいている。あるいは、違和感を持たない。

B    欧米に比べて、日常的な人々の往来・交流(特に、普段合わない人や不特定多数の人との接触)が少ない。(これは、先進国と発展途上国の間にも存在する差でしょう。) 

 

以上のようなことが,一応、考えられるのではないでしょうか。さらに、これら3つの要因がそろっていることが、キィポイントなのかもしれません。

皆様の中には、上記以外の要因をも考慮に入れるべきであるというような意見をお持ちの方がおられると存じます。是非ともお教えいただきたい。

 

「往来接触指数」

今までの所、どなたも指摘されておられないようなので、ここで、上記のBの問題について、少し考察を加えておきたいと存じます。

コロナウイルスは、「人から人へ感染します。それも、ほぼ“濃厚”接触を介して感染します。そのために、感染予防のためには、3蜜を回避することがもっとも有効であるとされています。なお、3蜜とは以下のことです。

@    『密閉』 換気の悪い空間

A    『密集』 人が密に集まって過ごすような空間

B    『密接』 不特定多数の人が接触するおそれが高い場所

それでも、やむを得ない場合には、以下のような行動をとるように推奨されています。

C    マスクの着用

D    換気を行う

E    大声での会話を避ける

F    相手と手が触れ合うような距離での会話は避ける

反対から言うと、このような状況になれば、感染すると言うことです。そのために、感染を完全に防ぐには、「人と人との“接触”を完全になくすこと」が、最良の方策です。そして、それを実現するには、「感染者が生じた地域、都市を完全にロックアウトしてしまう」ということになります。その例として、中国では、感染ゼロを目指してそのような対策をとって、成功しているようです。

 

 

用語について:通常、“濃厚接触”という用語は、「感染者と濃厚な状態で接触したこと」という意味で使われますが、ここでは、単に 「人とあるいは人々と、“濃厚な状態”で接触したこと」という意味で用います。また、“接触”という用語も、ここでは、「3蜜空間のような状況下での接近」とい意味で使いたいと思います

 

ひるがえって考えてみますと、実際の日常的な生活場面には、3蜜のような感染をもたらす状況(上記のような意味での“接触”)が少なからずあるということでしょう。そのような状況のために、感染拡大(流行)が世界中で起こっているのでしょう。もしも、(ある国、またはある都市に)、感染リスクとなるような、そのような状況がどの程度生じているのかを捉えることができれば、どの程度の感染拡大(流行)が起こる可能性があるのか、予測ができることになるなるかもしれません。そうなれば、(大まかかもしれませんが)、どの程度の厳しいコロナ対策が必要であるのか、ワクチン接種の優先順位などが予測できると思われます。

しかしながら、ある社会にどの程度、3蜜の状態が生じているのかを測定する、あるいは、指数化することはそう簡単ではないでしょう。むしろ不可能です。そこで、人々の往来、交流、接触(上記の意味での“接触”)を近似的に捉える方法として、(国民一人あたりの)自動車保有数、公共バスなどの保有数・路線距離、鉄道の路線距離・1日当たりの乗客数、民間航空の飛行機の保有数などからの合成した指数が考えられます。その指数が各国の感染拡大の大きさ、死者数を、ある程度予測できるものであったとすれば、それは大いに役立つ指数となってくれると思われます。どうか、こういう統計数値のお持ち方は、そのような指数をぜひ算出してみていただきたい。その指数はきっと役立ってくれると思うのですが、いかがでしょうか?